Partner Talk #2
川勝顕悟
直七法衣店 4代目

大正9年(1920)創業の「直七法衣店」4代目川勝顕悟。京都・西本願寺の近くに店を構え、お坊さんが着用する法衣や袈裟の製造・販売を手がける。「仏教と職人を次世代へ」を理念に掲げ、固定観念にとらわれない独創的なアイデアと高い技術力で、新製品開発に積極的に挑む。話題となった製品にSDGs袈裟、アヒンサーシルク(蚕を殺すことなく、繭から糸を紡ぐ不殺生の絹)袈裟、日本の手技で作るキリスト教のストラ(ストール)などがある。僧侶や牧師、研究者から広く宗教を学ぶオンライン大学「直七大学」を主宰するほか、Youtube「スナックナオシチ」では、ものづくりの裏側の紹介、お坊さんへのお悩み相談など、仏教や法衣を身近に感じられる多彩なコンテンツを発信。次世代を担う宗教者や職人たちの「学びの場」としても高い支持を得ている。 https://naoshichi-kyoto.com/

TOPIC
直七法衣店 ヘンプの法衣

月参りやお説法など、お坊さんが日常の宗教活動で着用する法衣を「布袍(ふほう)」または「黒衣」「改良服」などといいます。これを京都・直七法衣店がWeavearthのヘンプ生地で制作しました(写真の黒色の上衣、合用[通年用])。天然繊維らしいナチュラルな風合いに加え、ほどよいハリと光沢感が特徴です。2021年夏、販売開始。

お坊さんのための「サステナブルな服」を提案

制作意図

SDGsへの取り組みもあり、お坊さんの間でも環境意識が年々高まっています。そのため、通常は化学繊維で仕立てる法衣を「サステナブルな素材」で作りたいと考えました。なかでもヘンプは、農薬や化学肥料を使わずに育てることができ、土壌の環境を良くする作用もあるため、仏教との親和性が高いと感じています。自然を大切に節度ある生活をすることは、仏教の教えとも通じます。

また、宗教家が率先して「エシカルな服を着る」意義も高いと考えました。お坊さんが「ヘンプは環境にいいよ」と言うのと、メーカーやメディアが言うのとでは、一般の人々への届き方がまるで違うと思うんです。環境保護についてのメッセージを、よりパーソナルに伝えることができる点もいいなと思いました。

完成後の感想

法衣をご購入くださった僧侶の方からは、おおむね好評価をいただいています。一番心配していた着用時のシワについても、「あまり気にならない」という感想をいただき、ほっとしています。自然なシワはヘンプにとっての魅力ですが、法衣は僧侶の正装ともいえるため、宗派によってはより「きれいに着る」ことが求められます。シワの問題がクリアできたので、今後も積極的に展開していきたいですね。利用者の間口を広げていくために、小物入れやブックカバーなどの製作も検討したいと思っています。

Crosstalk: Weavearth x

川勝顕悟
さん

ヘンプの再利用を目指して—使用後の「その先」をデザインする

ナオシチさん:ヘンプ素材は耐久性がとても強いそうなので、ご購入された方が今後どれくらい製品を使い続けることができるかにも注目しています。その一方で、法衣の役割上、くたびれたものを最後まで着用することは難しく、ある程度のタイミングで買い替えが必要になると思います。その際の生地のリユースやリサイクルについて、 Weavearthさんはどのように考えていらっしゃいますか?

Weavearth大東(以下、Weavearth):使用済みヘンプの「紙」と「糸」へのリサイクルを進めるアイデアがあります。どちらも既に国内外で実践が進んでいるため、提携先を検討しているところです。これからはメーカーが「作って終わり」の時代ではありません。責任を持って、使用済みの生地はもちろん、製造中に出た生地の端切れや耳も廃棄することなく、循環させていく仕組みを考えていきたいと思います。

ナオシチさん:リサイクルやリメイクは、日本の着物が得意としてきた分野です。こちらからご提案できることがあるかもしれませんね。直線裁ちをする着物では、生地をほぼ余すところなく使い切ります。また、正絹の着物は「ときは縫い」(縫製をほどいて反物に戻し染め、仕立て直すこと)といって、お直しをする前提で作られています。そのため、あえて手縫いで、ほどきやすい縫製にしてあるんですよ。

Weavearth:着物の手縫いは、とても素晴らしい文化ですよね。今は大量消費の時代とは異なり、消費者がものを大切にケアしたり、「自分の手でちくちく直す」ことをひとつの「楽しいアクティビティ」として捉えているように思います。だからもう一度、手縫いの価値に光が当たっていくような気がしますね。しかも、直七法衣店さんは自社に縫い子さんがいらっしゃるとのこと。ぜひ、Weavearthの仕立てもお願いしてみたいですね。

ナオシチさん:ぜひ喜んで。社外になりますが、弊社は染め職人さんも多く抱えています。染め替えのご要望にもお応えできますよ!

「仏教×ヘンプ」でイノベーションを生み出す

ナオシチさん:仏教とサステナビリティは、とても相性がいいと感じています。例えば、お坊さんが身に着ける布状の「袈裟(けさ)」は、古代インドの僧侶が来ていた衣が原型です。当時の僧侶は財産や私有物を持つことが許されなかったので、使い古され、捨てられたボロ布を縫い合わせて服(袈裟)を作っていたんです。日本の袈裟はここから華やかに進化しましたが、原点には「ものを大切する心」がある。ヘンプの法衣をきっかけに、こうした意識が高まっていくといいなと思っています。

Weavearth: ふと思ったのですが、僧侶の方が5年、10年と身につけた法衣や生地には、自然と「徳」のようなものが宿る気がしませんか? ありがたいお経や教えがたくさん染み込んだ生地自体が、今後「新しい価値」になっていく気がするんです。だから、使い終えたヘンプ生地から新しい「アップサイクル」ができれば、既存の一方通行の消費とは異なる文脈で、ご縁や物語を繋いでいく経済循環が生まれる気がしています。

ナオシチさん: 興味深い視点ですね!今のお話を聞いて、ヘンプ法衣を「クラウドファンディング式」にしてはどうかとひらめきました。みなさんのご寄付で法衣を仕立て、リターンは5年後とか7年後にやってくるイメージです。お役目を終えた生地が、賛同者に別の形で戻ってきたら、すごく意味のある循環になる気がしました。

Weavearth:いいですね、ワクワクしてきました。禁欲が是とされることもあり、これまでは宗教が「ビジネス」や「イノベーション」の文脈で声高に語られることはありませんでした。でもここに「サステナブル」というファクターが加わることで、可能性がぐんと広がるように思います。「宗教とファッション」も語れるかもしれませんね。ここから新しいケミストリーが生まれ、仏教はもちろん、法衣もヘンプの市場もどんどん活性化させていきたいですね。ぜひ、今後も一緒にお取り組みさせてください。よろしくお願いします!