Partner Talk #1
安居昭博
サーキュラーエコノミー研究家

1988年生まれ、東京都出身。サーキュラーエコノミー研究家 / サスティナブル・ビジネスアドバイザー / 映像クリエイター。Circular Initiatives&Partners代表。世界経済フォーラムGlobal Future Council on Japanメンバー。ドイツ・キール大学「Sustainability, Society and the Environment」修士課程修了。 サーキュラーエコノミーの先進国であるオランダと日本の2拠点で活動し、オランダでの視察イベントの主催や講演を通して、日本にサーキュラーエコノミーを紹介。「トニーズ・チョコロンリー (Tony’s Chocolonely)」など、オランダ企業の日本進出に参画し、日欧間の循環型経済の橋渡し役を担うほか、複数企業のアドバイザー・外部顧問も務める。著書に『サーキュラーエコノミー実践 —オランダに探るビジネスモデル(学芸出版社)』(2021年6月)ほか。「サステナアワード2020」にて「環境省環境経済課長賞」受賞。2021年、日本各地でのサーキュラーエコノミー実践と理論の普及が高く評価され、「青年版国民栄誉賞(TOYP2021)」にて「内閣総理大臣奨励賞(グランプリ)」受賞。2021年より京都在住。 https://circularinitiatives.com/

TOPIC
循環するファッションとは? サーキュラーエコノミー入門

サーキュラーエコノミーとは、「循環型経済」とも呼ばれる未来志向の経済システムのこと。従来の”大量生産・大量消費・大量廃棄”による経済成長が頭打ちとなり、気候変動や資源枯渇の危機に瀕するなか、これまで廃棄されてきたあらゆる製品や原材料を「資源」として再活用することで、永続的に循環させていくものです。なお、このモデルにおいて『捨てる』というフェーズは排除されています。 ファッション産業は製造にかかるエネルギー消費量やライフサイクルの短さから、特に環境負荷が高いことで知られ、サーキュラーエコノミーの導入が重点課題とされています。weavearthでも実践に向けたリサーチや準備を行っていますが、まだまだ手探りで、分からないことも多いもの。そこで、専門家である安居昭博さんをゲストに、サーキュラーエコノミーの概念や、weavearthがいま取り組むべき課題、ヘンプやリネンがこれからのファッションビジネスで果たす役割、可能性についてディスカッションしました。

まずは基礎のおさらいから

サーキュラーエコノミー、ここがポイント!

サーキュラーエコノミーのポイントは、製造時に出る廃棄物や使用後の製品を一切捨てることなく、製造サイクルのなかで循環させていくこと。……という話をすると、決まって「理想論にすぎないのでは?」というご意見をいただきます。しかし、新たに立ち上げる事業やブランドを想像してみるとどうでしょうか? 製品設計やデザイン考案の段階から、資源を循環させる仕組みをつくっておけば、導入はずっとスムーズになるはずです。その好例が、オランダのスタートアップ企業が手がける「MUD Jeans(マッド ジーンズ)」。「世界からジーンズが捨てられる慣習をなくす」を理念に、リース式を採用し、破れたり体型に合わなくなったら修理・交換の依頼が可能です。また、使用済みジーンズは回収され、繊維に戻して再利用されています。また、アディダスは2019年に、単一素材のリサイクルプラスチックを採用し、かつ接着剤を使用しないことで「100%リサイクル可能なランニングシューズ」を発表しました(FUTURECRAFT.LOOP)。こうした事例から見えてくるのは、「経済成長」と「環境負荷の削減」をうまく合致させる試みや、反対に、ビジネスの成果指標をGDPや売上ではなく、社会の健全性、社会の幸福度によって評価していこうという新しい動きです。

実践に欠かせない「3つの原則」

次に、サーキュラーエコノミーを実践するにあたって、大切にすべき3つの原則をご紹介しましょう。

参考:サーキュラーエコノミー概念図

① 自然のサイクルを再生させるものであること
② 廃棄物と汚染を出さない設計・デザインであること
② 製品と資源を使い続けること

この中で最も大切な視点が、「①自然サイクルの再生」です。この根底には、地球環境の破壊や汚染はかなり深刻な状況まで進んでいて、「マイナスの状態にある」という現状があります。昨今はSDGsの認知も上がり、「サステナビリティ(持続可能性)」の意識も高まっていますが、どちらかといえば「現状維持」「マイナスを減らす」の意味合いが強く、それだけでは自然は元に戻りません。そこでもっとポジティブに自然を回復させていくアクションが求められているのです。例えばWeavearthが扱うヘンプは、土壌の健康を回復する作用があることが科学的に証明されています。今後の活用が大いに期待される分野だと感じています。

Crosstalk: Weavearth x

安居昭博
さん

ヘンプが、自然を再生させるキーになる!?

Weavearth 大東(以下、weavearth):「バタフライ・ダイアグラム」は、私たちがやるべきことが明確に整理されていて、わかりやすいですね。weavearthのヘンプ・リネン製品もこれを参考に、独自の循環サイクルを作っていきたいと思いました。特に、ヘンプは土に還るのはもちろん、リサイクルにも向いている素材です。生地の端の「耳」や使用後の布を使って、丈夫な紙を作ることができますし、ヘンプの種から油を採ることもできる。これを燃料にして車を走らせる実験も進んでいるんですよ。

安居さん:ヘンプは元の植物自体も、製品となった生地も「捨てるところがない」のが素晴らしいですね。世界でも循環型素材としてのヘンプは、とても高い注目を集めています。

Weavearth:サーキュラーエコノミーで、「自然を再生させる」ことを重要視していることも素晴らしいと思いました。weavearthはもちろん、ファッション産業は天然繊維を扱うので、いろんな貢献ができる気がしています。

安居:自然の再生には、微生物の力を借りた循環サイクルが欠かせません。そのため、海外では「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」の導入がはじまっているんですよ。聞きなれない言葉ですが、簡単にいえば、輪作や有機肥料などの昔ながらの農業技術を活用し、土壌の有機物を増やし、大地の健康を回復していくこと。これによってより多くのCO2を吸収が可能となり、気候変動を抑制していくことが期待されています。

Weavearth:私たちが扱うヘンプはまさに「リジェネラティブ」な作物ですね。ヘンプを植えることで土壌を改良・改善する作用がありますし、ヘンプが成長する際に吸収するCO2量は、森林よりも高いといわれています。さらに、「ファイトレメディエーション(植物による環境修復)」といって、鉱山の跡など、重金属で汚染された土地にヘンプを植えることで、汚染物質を吸収し、土壌を清浄化できることも証明されているんです。こうした機能も積極的に発信していきたいですね。

世界も注目する、日本古来の暮らしの知恵

安居: 今後のWeavearthを「こんなブランドに育てていきたい」という展望があれば、ぜひお聞きしたいです。

Weavearth:ヘンプもリネンも、生地自体に優れた耐久性があります。ヨーロッパではリネン生地が何代も大切に受け継がれてきた歴史もあるんですよ。ですから、「耐久性のある製品」を作り続けることで、資源を有効に活用していきたいですね。また、耐久性には「モノ自体の強さ・丈夫さ」だけではなく、「エモーショナルな強さ(愛着の強さ)」もあります。長く慈しみたくなるようなデザイン、風合いも育てていくつもりです。そのためには適切なケアも必要なので、こうした知識を、生地自体が持つストーリーと合わせて紹介していきたいですね。

安居:長く製品を使うためには、「修理」がしやすい体制を整えておく必要があります。実は、EU加盟国では、市民に「修理する権利」を認める動きが広まっています。つまりメーカー側は、修理の窓口整備や部品提供に加え、利用者自身が修理できるよう既存製品の設計・デザインを抜本的に見直すことが求められてきているのです。「バタフライ・ダイアグラム」でも修理はリサイクルやリユースより環境と経済の両面でメリットがあることが明らかになっています。


Weavearth:修理する権利とは……! 環境先進国は一歩先を進んでいますね。

安居:ところで、Weavearthのヘンプ生地に初めてふれたとき、とてもやわらかく、手触りがよいことに驚きました!ヘンプは「ざっくり」「ゴワゴワ」しているイメージだったので、これがWeavearthの強みなのだなと実感しました。聞けば、Weavearthの母体であるAKAIさんは100年以上の歴史があるリネンの専門商社だとか。リネンの扱いに長けているからこそ、ヘンプでもこれだけ豊かな生地感を出せるんですね。

Weavearth:私たちの強みを理解してくださり、うれしいです。この質感は、私たちにしか出せない唯一無二のもの。大切に育てていきたいと思っています。

安居:ヘンプは、有志以前から日本で織り続けられてきた原始布のひとつ。ここにAKAIさんの最新技術が加わることで、最先端のテキスタイルに進化しているのが興味深いですね。実は、世界のサステナブル市場は、日本古来の生活の知恵に注目しているんですよ。例えば、江戸時代の循環型社会の視点とテクノロジーを融合させたら、きっと大きなイノベーションが生まれると思うんです。Weavearthの今後の展開にも期待しています!

Weavearth:がんばります! 今日はありがとうございました。